ホチキスの箱が重い理由【みいちゃんと山田さん】

この記事について
この記事は、亜月ねね先生の漫画  
『みいちゃんと山田さん』(講談社・マガジンポケット連載中)  
第1巻に登場する「むうちゃん」のエピソードに深く感動し、  
現実の知的・発達障害女性が直面する性搾取問題を  
多くの人に知ってもらうために作りました。

原作への敬意と感謝を込めて、  
ネタバレを最小限にしつつ考察しています。

原作者:亜月ねね先生 X → [@azuki_nene](https://x.com/azuki_nene)  
公式アカウント → [@miichan_joho](https://x.com/miichan_joho)  
最新話はこちら → [マガジンポケット](https://pocket.shonenmagazine.com/product/episodeList?comicId=207670)

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現在X上で話題になっている漫画「みいちゃんと山田さん」。

この作品は発達障害や毒親を持つ子供の苦悩、意図せず生まれてしまったタブー扱いされる存在の子供など現代社会が抱える問題やそれにまつわる描写を描いており、見入ってしまいます。

作中内で出てくる知的障害を抱え善悪の判断がつかないまま社会に出て非行を繰り返し拘留され出所した女の子に焦点をあて私なりに考察していきます。

目次

知的障害を抱える女の子 ムウちゃん

みいちゃんと山田さん第一巻作中より

ムウちゃんはみいちゃんの幼少期からの友達で知的障害を抱える女の子です。しかし、自分が知的障害者であることを知るのは社会に出てからでした。

ムウちゃんは以前パン工場で働いていましたが、みいちゃんに誘われ一緒に立ちんぼをしたり風俗で働くようになりました。みいちゃんと立ちんぼをしながら稼いでいる中、ある日ムウちゃんは万引きをしてしまいます。執行猶予がついたものの、ムウちゃんは善悪の判断がつかないため執行猶予中に万引きを繰り返してしまいます。それにより刑務所に拘留されることになります。

刑務所へ入所する際に担当者と一対一で知能指数テストを受けるのですが、テスト中の行動や会話能力から担当者にムウちゃんには何らかの障害があると診断され出所後、社会福祉によるサポートを斡旋されます。

ムウちゃんの居場所

ムウちゃんは出所後、福祉事務所(現実世界でいうところの◯型作業所)を紹介されホチキスを組み合わせて箱に詰める仕事に就きます。

自分が知的障害者であることを受け止め、今後一切風俗等の仕事をしないと決断し、社会的立ち位置と生活基盤を築き上げるため箱詰めの仕事をこなし社会の役に立とうとするムウちゃん。

風俗・立ちんぼで得たお金と必死に社会のために働き得たお金は同じ効力だが、価値は全然違うと感じる。

風俗・立ちんぼで得たお金はまた体を許さなければならない事を表し心も解放されないままだ。しかし作業所で必死に働き得たお金はどうか。

初めて体を売らずに手に入れたお金。それは、自分が知的障害であることをまだ知らなかった頃心を殺しながら稼いでいたあの暗い過去から解放された確かな証拠である事は間違いないだろう。

なぜ発達・知的障害を抱える女性は性産業へ流れるのか?

性産業へ流れる理由は発達・知的障害の特性が関係があるとされる。その特性によって性産業へ流れる原因をリスト化した。

  • 一般就労が極めて難しく続かない、それにより経済的困窮に陥りやすい
  • 表社会に居場所がない
  • 性産業に流れる前から性的搾取を受けており性行為へのハードルが低い
  • 嫌だと言いたいのに上手く言語化出来ない
  • 業務内容がほぼ同じであり知的障害の特性とマッチし自分が障害者であることに気づきにくい

私が考える大まかな原因をあげたが、何か気づかないだろうか。彼女達の意思で性産業に従事している訳ではないということを。発達・知的障害がそうさせているだけで貴方は何も悪くない。自分が悪いから、自分がダメだから性産業に従事しているのではない。

上記のリストにも書き記しているが、知的障害の人は『同じ動作を正確に繰り返す』のが得意という特性があります。
だから風俗の仕事は“自分にもできる”と錯覚しやすい。
でもそれは本人の意思ではなく、障害が作り出した“偽物の適性”にすぎません。

まとめ

ムウちゃんに限らず現実世界でも、ホチキスの芯を箱に詰める仕事をしている人がいます。
一日中同じ作業を黙々と、丁寧に繰り返して。その作業所で、彼女たちは初めて「自分にもできる仕事」に出会いました。
そして初めて「自分は知的障害者である」と受け止めました。
それでも「社会の役に立ちたい」と、毎日必死に働いている。

私たちが何気なく手に取るホチキスの箱。
あの軽い箱の裏側にムウちゃんのような、かつて風俗に落ち、万引きで捕まり、誰にも守られなかった女性たちが
汗を流して働いている現実がある。だから私は、もうあの箱を「軽い」とは思えない。
手に取るたびに、重いと感じる。彼女たちがやっと見つけた居場所で作られた道具を、私たちは乱暴に扱ったり、床に落としたり、「ただの文房具」として捨てたりしていいのだろうか。

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